福島県福島市に木造平家建てのバリアフリー住宅を設計施工しました。




60歳からの家づくり
お施主さんは福島県外に在住しており、定期的に福島市内で生活するご両親に会いに行かれるため、福島市に滞在する際のセカンドハウスとして本計画がスタートしました。お施主さんからは設計をするにあたり、大切にして欲しいポイントをお伝えいただきました。
1)将来的に訪れるかもしれない、介護がある暮らしを前向きに捉えられる住宅であること。
2)そのために車椅子で生活するお母様が生活しやすいという視点で設計をすること。
ご自身が60代ということもあり、これからのシニア世帯の住宅のあり方を考えることが今回の家づくりの大きなテーマとなりました。


外と内を行き来するワンルーム空間
建物は、スロープ、パティオ、デッキからなる半外部空間と、LDK、寝室、ユーティリティからなる内部空間により構成されています。
建物全体がワンルーム空間のように一体的に使用できるようになっており、屋根勾配にあわせてつくった天井も相まって、面積以上の大らかな広がりを感じられる空間となっています。
家の外と内を行き来きできるような回遊性をもつ住空間がこの家の特徴となっています。




バリアフリーの設計ポイント
設計を進める中でバリアフリーの観点から留意したポイントについていくつかご紹介します。
床
床は全体をフラットに構成して、段差が生じる箇所についても20mm以下となるようにしています。
室内の床材にはコルクタイル(表面はウレタン塗装仕上げ)を採用しており、車椅子などの重歩行にも対応できるようにしています。

建具
建具は全て引き戸とし、開口幅はメインの動線となる部分では1200mm、最小でも800mm以上を確保しています。また建具は開けたままの状態での利用も想定した計画としています。


電気設備類
スイッチの設置高さは、車椅子利用の際にも使用しやすいように、床面から1000mmの高さに設置しています。
コンセントの設置高さは、屈まなくても使用できるように、床面から400mmの高さに設置しています。
また寝室から、キッチンと便所までの動線内に設置してあるコンセントはナイトライト付のものを使用しており、夜間の安全にも配慮しています。

便所
便所は夜間の利用頻度を想定し、寝室横に設置しています。出入り口の位置や、通常の便所より余裕のある幅寸法にするなど、車椅子での利用にも配慮しています。
将来的に手すりを設置するかもしれない箇所には事前に木下地を入れています。

浴室
浴室はユニットバス(1620タイプ)のものを使用しています。出入り口は引き戸とし段差のないつくりとしています。
浴槽への移乗がしやすいようにベンチがついている仕様のものを選定しました。

ユーティリティスペース
ユーティリティスペースは、浴室の隣に計画しています。
洗面室や脱衣室の機能をまとめた空間とすることで広々とした空間となっています。

スロープ
住空間への出入り口にはスロープを設置しています。幅は1775mm、勾配は1/9(介助者との利用を想定)としています。

スロープ+αの空間がつくる半外部
この家のもう一つの大きな特徴として「スロープ+パティオ+デッキ」からなる半外部空間が挙げられます。
お施主さんはもともとアウトドアライフを楽しむことを生活の一部として大事にされていたので、
家に必要となってくるスロープにパティオ、デッキの空間を付け加えることで、いつでも外の空気を感じられる半外部空間をつくりました。




スロープ、パティオ、デッキはそれぞれ異なる構造架構を並べながら、一本の土台を軸として通すことで、特徴的なファサードをつくっています。
梁から土台に下げた丸鋼は、吊り材としての役割を担うだけでなく、暮らしのスタイルに合わせて、手すりや棚等を設置するための縦桟としての使用も想定しています。
暖かな日差しをデッキで浴び、寒い日には温かいコーヒーをパティオで楽しむ。そんな生活の風景が展開されることを期待しています。



昔からそこにあったような風景
実は今回の家は初回のご提案時から大きく形を変えました。
それはお施主さんとの対話の中で建築が成長するように自然と変化していったような過程にも感じます。
建物のお引渡しのあと、お施主さんから、「昔からそこにある家のように風景に自然と馴染んでいる」というお言葉をいただきました。
私は完成した家で過ごされるお施主さんをみて、「お施主さん」と「家」のあいだに流れる生活のリズムのようなものが昔からあったような心地よさを感じました。
その時お施主さんと共に家をつくる日々の中で積み重ねてきた時間がきちんと形として現れたように思ったのです。





アンケート
Q1.家づくりのきっかけはなんでしたか?
これからどういう生活をしていくんだろうということを考えたときに、自分の生活の中の登場人物が何人かいて、その誰かが誰かの介護をする、ということが重要なテーマのひとつになってくるんだろうなという想いがありました。
そんな時、福島の実家に隣接した土地を入手できる機会があり、そこに家を建ててみようかと思ったのがきっかけです。
Q2.どんな家にしたかったですか?
最初に出していただいたテーマが、「誰かが誰かに手を差し伸べる家」というものだったんですが、まさにそんなイメージでした。
具体的にいうと、まずバリアフリーであること、平屋で、自分たちにとってちょうどいい広さであること、シンプルな間取り、眺めていて気持ちがいいという趣味の合うディテールや素材感、といったことがありました。
目に見えない部分では、暑さや寒さをある程度防げる断熱性など。
おしゃれな暮らしは求めていないということも、はっきりしていた点です。
Q3どんなことから家づくりをスタートしましたか?
全体感としては、空間を限定しすぎないことで、これからの生活イベントに対応していけるフレキシビリティを理解していただくことから始まったと言えるかもしれません。
ただ、ファーストプランの住宅模型は、正直に言うと、”建築家が作った家”だと感じました。そこから、ひとつひとつ、本当に数多くのリクエストをお伝えしました。
建築士の方が神奈川にお住まいだったので、私の東京の自宅で月1ペースで話し合うことができました。
その間に、互いの提案を戻したり、受け入れたり、ということを繰り返し、最終的にはベストなところに行き着けたと思っています。
Q4. アーキトリップにご依頼いただいた決め手はなんですか?(依頼の経緯等)
地元の方であることが自分の中の第一条件だったので、1年間くらい、設計事務所や建築家に関する情報をインターネットで調べました。
決め手となったのは、まずスタッフの年齢。アフターケアやメンテナンスをお任せするためにも必須条件でしたし、柔軟なコミュニケーションが可能だったのも、この”若さ”があったからこそと思います。
福島の建築事務所のホームページには、いわゆる建築としての作品が並んでいるようなところも多々ありましたが、こちらが求めていたのはそういうことよりも、全体の流れとかいろんな心配にどう対応していただけるかということでした。アーキトリップさんのホームページを見た時に、あ、ここだという勘のようなものがありました。
Q5.家づくりの際にこだわったポイントを教えてください。
床をコルク材にすること、壁の色と素材感、くらいのことが最初からこだわっていた点です。
あとは、いわゆる玄関というものは不要、とか掃き出し窓を減らして腰窓を増やす、照明の設置方法というようなことは設計のプランを相談していくうちに明確になっていきました。
費用面も含めて、かなり細かいことまで確認させていただいたと思います。
Q6.設計中、工事中に大変だったことはありますか?
自分がこだわったからこそではあるのですが、こんなに選ばなければいけないこと、決めなければいけないことが多いのかと驚きました。
決定してからも、これで良かったのかと不安になる。施主鬱ですね。
そんな場合も、スタッフがいつも情報を共有しながら、最適解を強要することなく、最終的にはこちらに委ねてくれる姿勢は有難いものでした。
また、施工が始まってからも建築法規の関係等で変更しなければいけない点も出てきましたが、結果的には、常に解決策を一緒に導き出すことができたと思っています。
Q7.実際に家が完成し、お住まいになった感想をお聞かせください。
竣工時、アーキトリップとのグループラインに「アーキトリップという会社を選んだ自分を褒めてあげたい」と書きました。
この家は、これまでの自分が共に過ごしてきた人たちとの時間、場所、経験を映し出している空間になったと感じています。
過去でも未来でもなく、今だからこそ作れた家。
デザインの優れた家を作るよりも難しいことを実現していただいたと感じています。




Data
- 構造木造平家建て
- 間取り2LDK
- 敷地面積318.43㎡
- 建築面積95.65㎡
- 延床面積58.79㎡
- 竣工2026年1月
- 設計アーキトリップ/桑名翔太+平岡諒太
- 構造設計mono/森永信行
- 施工アーキトリップ/桑名翔太+中野光晶