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時と場を育む暮らし【住宅】2025

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    福島県福島市

福島県福島市でリノベーションの設計施工を手掛けました。
立地は福島市の果樹園が多いエリアに位置し、周囲に広がる桃畑が特徴的で、その視界の先に吾妻連峰や安達太良山を眺めることができます。

 

地域のランドマークとしての佇まい

建物は築50年のコンクリート造で、昭和的なモダニズム建築に近い印象がありました。

象徴的な外観をしたこの建築は、周囲の民家や桃畑とは「馴染まない存在」ですが、
地域の方々から注視されることでランドマークとしてこの場所に佇んでいました。

建築が周囲に馴染むのではなく、建築が中心となり周囲の風景が出来上がる様子が感じ取れます。

上:既存写真

既存の白い外壁を、周囲の緑地が映えるようにダークトーンにすることで印象を一新しました。

近所の通学途中の小学生や散歩中の方々に、50年後も話題にしてもらえるようなシンボリックな場所になることを願っています。

 

 

建築を編集し直すこと

ここを訪れた際に既存の状態をみて、当時の設計者が相当こだわりを持ち、住まい手が大切に暮らしていたことが伝わってきました。

この場所を現代の暮らしに作り変えるのではなく、設計者の意図を繋いでいくことに価値を見出し、その手法を模索しながら設計をしました。

リノベーションは、設計者と施主様の2者だけではなく建築の意思を聞くことで、建物を未来に繋ぎ、場を育んでいくことができると我々は考えています。

   

 

自分たちが好きなものだけで空間を構成するのではなく、残すべき素材・技術・ディティールを辿りそれを編集し直しました。

現在では高価になった無垢材や、当時の職人の技術力が詰まった造作家具やタイル貼りなどが多く採用されていたので、
その意思を繋いでいくことが素材選定や意匠デザインの軸となりました。

 

リノベーションの自由度について

築50年のコンクリート造のため木造とは違い、容易に壁や間仕切りを解体できないことから、改修の自由度(プランニング等)には制限がありました。

そのため新築で重要視されるような生活動線や部屋の大きさは本計画では当時のままになっており、そこに対して施主様が生活を合わせていくという「逆様設計」になっています。

 

暮らしの不便さと建築について

この住まいは階段が多い上に生活動線も悪く、1日の生活の中で上下階の往復が何度もあります。さらに奥の部屋に家族が行くと、その気配すら感じられません。

現代の暮らしからすると、これは「家づくりの失敗」「不便な家」などと位置付けされるのかもしれません。

新築の家づくりは快適さを求め、動線や省エネ性を重視し、「効率の良い住まい」が増えています。

暮らしの楽しさ、住まいの豊かさは、建物単体で完結するものではなく、周囲の景色や気配の感じ方・時間の流れとともに育まれるものなのではないでしょうか。

東西南北による光の柔らかさの違い、上下階を移動することで変わる目線からの風景、これらはきっと「効率の良い住まい」では
味わうことのできない日々の出会いです。

   

 

   

 

名のない部屋をつくる

「部屋名」という言葉があります。

リビング、ダイニング、寝室、子供部屋。図面に「部屋名」を書き記した途端にその場所での役割・行動は制限され、空間の使用用途が決定します。

この建物には「名のない部屋」が二箇所あります。

名をつけなくなった瞬間、空間の使用用途は広がり暮らしの余白がうまれます。

   

上写真:この場所ではご夫婦が談話したり、読書をしたり、食事をしたりと様々な生活シーンが生まれます。

 

  

上写真:この場所は植物の居場所や趣味スペース、生活者だけではなくモノの居場所にもなっています。

 

景色と暮らし

各部屋の南面には大きな開口部が計画されています。

目の前には桃畑、その先には吾妻連峰や安達太良山を眺めることができ、
その開口部を通して見える景色は日々変化し、ここでの暮らしを楽しませてくれます。

我々設計者は与えられた土地の内の設計しかできませんが、そこから見える景色や風景を取り込むことで、建築に無限の可能性を与えることが可能です。

変わらない場所から、変化し続ける景色を眺めることで日々の豊かさが育まれます。

 

ディティールのかけら

外観

姿形は変えず、服を着せ替えるような感覚で外観の配色を塗り替えました。
建物の色が変わることが周囲の風景の見え方を変え、地域へ影響していく様を感じました。

   

 

馴染む・溶け込む

本計画において「馴染ませる」「溶け込ませる」という表現が設計中に多く飛び交いました。
どこを修繕しどこを一新したのか、なるべくわからないように、感じとらせないように、違和感なく空間を構成することを目指しました。

   

配色や色トーン、素材選定を統一させることで新旧を馴染ませています。

 

タイル

タイルを多く採用しています。
磁気質やせっ器質、工業品から焼き物など一括りにできないそれぞれの味わいがタイルにはあります。

50年前からあるもの、50年先にはないかもしれないもの、そんな思いを馳せながら様々な種類のタイルを選定しました。
均一的ではない、ゆらぎや個性のあるものがこの場所にはマッチします。

  

  

 

設計の想い

築50年の家を引き継ぐ瞬間に立ち会えました。
50年後に他の誰かに引き継がれる瞬間がきっとくるでしょう。

その時に、「昔の設計者の意思を繋げるよう壊さないで残しておきたいね」と言われるような家にしたかったです。

家は住まい手が居なくなった瞬間、その役目を終えます。

数年間空き家だったこの家にその役目を再任し、「あなたの価値はこんなもんじゃないでしょ」と鼓舞することが使命だったと感じています。

住まい手が幸せに暮らし、家が生き続けていくことを心から願っています。

  

 

  

 

 

Data

  • 構造コンクリート造
  • 間取り5LDK
  • 敷地面積573㎡
  • 建築面積-
  • 延床面積163㎡
  • 竣工2025年2月
  • 設計アーキトリップ/桑名翔太+桑名真生子
  • 構造設計-
  • 施工株式会社アーキトリップ