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設計の楽しさについて

建築家や設計者にとって、仕事の中で「楽しい」と感じる瞬間は、人それぞれ違うと思う。

個人の住宅をつくるとき。
お店をつくるとき。
あるいは、規模の大きなプロジェクトに関わるとき。

それぞれに求められることも、向き合う相手も、設計の進め方も違う。 だからこそ、そこにあるやりがいや面白さが詰まっている。

住宅であれば、住む人の暮らしや家族の時間に深く関わること。
店舗であれば、これから始まる商売や、その場所に生まれる空気を一緒につくっていくこと。
大きなプロジェクトであれば、多くの人と関わりながら、街や地域の風景に残るものをつくること。

どれも建築という仕事の魅力だと思う。

その中で、自分が設計をしていて特に面白いと感じるのは、最初はまだ形のないものが、少しずつ輪郭を持ちはじめていく過程にある。

はじめから明確な答えがあるわけではない。

むしろ、多くの場合は曖昧なところから始まる。

「こんな暮らしがしたい」 「今のお店をもっと良くしたい」 「この土地で何ができるだろう」 「予算は限られているけれど、何か面白いものにしたい」

そんな言葉になりきらない思いや、ぼんやりとした希望を聞きながら、少しずつ整理していく。

建築の仕事は、図面を描いたり、形を考えたりする仕事と思われることが多い。

もちろんそれも大切な部分ではあるけれど、自分にとってはその前段階にある「考えを掘り起こす時間」がとても重要だと感じている。

その人は、どんな暮らし方をしたいのか。

そのお店は、どんな人に来てほしいのか。 その場所には、どんな風景や空気があるのか。 今ある制限の中で、何を残し、何を変えるべきなのか。

そうしたことを一つずつ考えていく中で、ただの要望だったものが、少しずつ建築の考え方やカタチに変わっていく。

この瞬間が、設計の面白さのひとつだと思う。

 

特に地方で仕事をしていると、建築は単体で完結するものではないと強く感じる。

そこには土地があり、周囲の風景があり、人の営みがある。

住宅であれば、家族の暮らしだけでなく、庭や隣地、光の入り方、山並みの見え方まで関係してくる。

店舗であれば、内装のデザインだけではなく、その店が街にどう開いていくのか、地域の中でどんな存在になるのかも大切になる。

 

建築は、完成した瞬間だけがゴールではない。 むしろ完成してから、その場所で人が暮らし、働き、時間を重ねていくことで、少しずつ本当の意味を持ちはじめる。

だからこそ、設計している時にはいつも、完成写真に写る美しさだけではなく、その先にある時間を想像している。

朝、どこに光が入るのか。 家族がどこに集まるのか。
お客さんが扉を開けた時、どんな印象を受けるのか。 店主が一日の終わりに、どんな気持ちでその場所に立つのか。

そうした具体的な場面を想像しながら考えることが、自分にとっての設計の楽しさでもある。

 

自分はアーティストではない。

自己表現ではなく、相手や条件があってこその成り立ちに建築の面白さはあると思う。

すべてが自由で、何でもできる状態よりも、限られた条件の中でどう答えを出すかを考えることにやりがいや存在意義を感じている。

予算が限られているから、素材の使い方を工夫する。

敷地が狭いから、抜けや視線の通し方を考える。 既存の建物に制約があるから、残す部分と変える部分のバランスを探る。

そうして生まれた答えは、単なるデザインではなく、その場所やその人のためのかたちになりそこに仕事としての魅力を見出している。

 

そしてもう一つ、この仕事の大きな魅力は、目の前の人の人生や挑戦に深く関われることだと思う。

住宅は、家族のこれからの暮らしに関わる。 店舗は、誰かが商売を始める大きな決断に関わる。

リノベーションは、今あるものを受け継ぎながら、新しい時間を重ねていく行為でもある。

設計者は、ただ建物をつくっているだけではない。 その人の次の一歩に、建築を通して関わっている。

それは責任のあることだけれど、とても幸せなことでもある。

打ち合わせの中で、最初はぼんやりしていた表情が少しずつ明るくなっていく。 図面を見ながら、暮らしやお店の未来を具体的に想像してくれる。

完成した空間に立った時、「こういうことがしたかったんです」と言ってもらえる。

「ありがとうございます」と言ってもらうと、こちらこそ本当にありがとうという気持ちになる。

そういう瞬間に、この仕事をしていてよかったと思う。

 

建築の仕事は、楽しいことばかりではない。

悩むことも多いし、思うように進まないこともある。

お金のこと、工事のこと、人との調整、現場で起こる予想外のこと。 日々の中には、地味で大変なこともたくさんある。

それでも続けていられるのは、やはり建築という仕事にしかない面白さがあるからだと思う。

まだ形のないものを考え、図面にし、現場で職人さんたちの手によって少しずつ立ち上がり、最後には誰かの暮らしや仕事の場所になる。

頭の中にあったものが、現実の空間になる。 そしてその空間が、人の時間を支えていく。

この一連の流れの中にいられることが、建築の仕事の一番の魅力なのかもしれない。

建物をつくるということは、単に新しい箱をつくることではない。

その人のこれからや、その場所の可能性を一緒に考えることだと思う。

 

だから自分は、これからも一つひとつの仕事に対して、 人のこと、場所のこと、自分たちだからできることを考えながら向き合っていきたい。

その先に、その人にとっても、その場所にとっても、 「ここだからよかった」と思える建築が生まれたらいいなと思う。